脳性まひ者 しんやのひとりごと

脳性麻痺による両上下肢機能障害と共に生きる筆者が、折にふれ、浮かぶ思いをつづる。

役所へ用があって…

 昼過ぎまで自宅に訪問していたヘルパーさんが帰るとき、玄関の外の電動車いすへ移乗してもらい、
「お気をつけて……」
 役所へ用があって、ひとりで向かった。
 平成二十八年八月二十四日、長町南(仙台市)は午前中曇っていて、
「ひとりで外を行くには、ちょうどいいかもしれない」
 焼けるような暑い日が多かったのでホッとしていたのに、電動車いすに移乗してもらった昼ごろに、急に陽がさしてきた。
 住宅地の道の端っこを進み、大通りへ出る。街路樹の深い緑の葉がそよぎ、きらめいていた。
 信号を待つあいだ、晴れてきた空を仰いで、ため息がもれる。
 なんだか、暑くなってきたな。予報は曇りのはずなのにな……。
 歩行者用の横断歩道の、ちょうど真んなかを渡るつもりで信号を待っていた。ちなみに最高時速六キロまでの電動車いすは、歩行者あつかいである。
 右側は自転車用のマークがある。以前には真んなかでなく、自転車と反対の右端が安全だろうと、思い込んでいた。ところが信号が青になり、そのまま進もうとすると、自転車が真向かいから猛スピードで走ってきたのである。
 こちらがよけるか、相手がよけるか。端っこなので、両方でよけたら、衝突してしまう。あわくって、こちらがよけたが、自転車はよろけながらもそのままの猛スピードで、こちらをにらみ、舌打ちして去って行った。白髪の年配の男性の方で、かなり急いでいるらしかった。
――なんで、自転車用の反対側、走ってくるのかなぁ。おじいちゃん、こわいよ~。
 小さな独り言でその気持ちを発散しながら、行くべき道を進んでいたことがあった。
 横断歩道は、自転車マークの反対側にいるから安全とは限らない。
 真んなかなら、相手の自転車の前輪の動きを見て判断し、右へも左へも、よけられる。そう悟ったからである。
 役所へは十分もかからずついた。エレベーターに乗らなければならない。すんなりボタンが押せるかどうか。きょうは不安があった。
 ぼくには手足がかってに動いてしまう症状がある。脳性まひによる不随意運動、というもので、細かなコントロールが日によってきかなかったりするが、調子のよくない日だった。
 いっしょに乗る人がいて、何階ですか、と聞いてボタンを押してくださり、ホッとした。
 エレベーターの扉が開き、電動車いすをバックして出る際も誘導してくださった。若いママと小さな女の子が、声をそろえて、
「オーライ、オーライ」
 おかげでヘルパーの介助がなくても、無事に役所の用を済ませることができた。小さな子特有のなまりのあるオーライの声に、クスッとしてしまう。きっと優しい子なんだろう。じんわり胸に、なにかがひろがった。