並んだご婦人さんに
散策への道すがら、キンモクセイの香りが、ほのかに漂ってくる。近くの家の庭に木があるが、もう咲いたのだろうか。
アスファルトの路面を枯れ葉がちらほら、乾いた音をたててころがっていく。
長町南はこのところ、雨の日が続いていたので自宅にいる日が多かった。せっかくの晴れ間である。
脳性まひという障害で手足が満足に動かせず、話すにも舌がもつれてはっきりしない。そのため、介護サービスを利用しながら暮らしている。
きょう二人目のヘルパーさんが用が終わって帰るとき、外においてある電動車いすへ移乗してもらった。十二時三十分ごろである。
「お気をつけて」
次のヘルパーさんの訪問は二時間後だから、それまでに戻れば玄関から中へいれてもらえる。
平成二十八年九月三十日、久しぶりに仰ぐ青い空である。夏から続いていた灼けるような陽射しがだいぶ和らいで、ロンT一枚では日陰になると少し肌寒かった。
「もう、秋風だな」
住宅地を抜けると、大通りに沿って深い緑が続いている。このケヤキの並木も、もうすぐ赤や黄色に染まるだろう。
胸がドキドキしてきたので、引き返した。
電動車いすを操作しながら歩道を進んでいると、こんどはすらりとした足があらわれて、前方の視界を阻んだ。
その足は、道の右前方をみようとすれば、右へきてかくしてしまう。それなら左がわをみようとすれば、左にきてしまう。
立って歩いている人ならいいかもしれない。電動車いすの高さでは、超ミニのスカートの人が行く手にあらわれるとまっすぐ前を見ていられない。特に男としては、困ってしまうのである。少しとまってみる。長い髪でおしゃれをした服装は、外回り中のどこかのOLさんだろうか。
もう時間がない。このおねえさんを、なんとか追い越せないものか。
広い道になって、追い越せた。やった。
ホッとしていると、逆に追い越されて、
「はあ……」
信号を待つあいだ、すぐ後ろを歩いてきていたご婦人さんが横に並んで、温かな笑みを浮かべ、会釈した。どうも、とぼくもお辞儀した。さっきからご苦労さん、という、いたわりの笑顔にも見え、ちょっぴり恥ずかしくなった。
前方の超ミニのおねえさんに教えてもらうわけにはいかないので、横のご婦人さんに聞いてみたかった。
夏とか秋だけでなく、冬でも短いスカートをはいたりするけど、女のひとって、寒くないのかしらん?