脳性まひ者 しんやのひとりごと

脳性麻痺による両上下肢機能障害と共に生きる筆者が、折にふれ、浮かぶ思いをつづる。

日記・コラム・つぶやき

祈りに力を込めて

寒い冬に冷たい川で流され、慌てているところで目が覚めた。まだブルブルと寒気がしていた。いつも、こんなたぐいの夢ばかりだ。 きょうは、令和五年十二月二十一日である。今年も、あとわずかになった。 えいっ! かけ声をかけ、寝返り、横を向く。まくら元…

宝さがし

おはようございます。 コロナ禍になって数年は、生きていくうえで大切にしていたものが、ひとつ、ひとつ、またひとつ、天から取り上げられたようで、戸惑う日々を過ごしていました。 何か発信するといっても、不平、不満、愚痴、泣き言になるんで、発信は休…

悩ましいマスク

ダウンジャケットにカッパを着せてもらって、午前十時過ぎに外へ出た。用足しである。 令和四年十二月二十二日、冬の雨は冷たくて、身にしみた。 電動車いすで歩道を進んでいく。行き交う車を見ようとした。マスクが襟に引っかかり、「まずい」 目がかくれそ…

ごろんとなって

部屋でひとりになると、敷き布団の上へ這っていき、ごろんと横になる。昼十二時までの訪問のヘルパーさんが帰ってから、そうしてしばし休んでいた。 ベランダの窓には、どんよりした雲が流れ、ときおり風がうなる。十一月にしては暖かな日が多かったが、これ…

う~む これを前向きに、といってもね……

きのうの昼ごろ、玄関の戸が開いて、「おいっす」 実家の母が、アパートで暮らしている息子のようすを見に来たのでした。「いやいや、つまんね。なんで、こんなんなったんだべなあ」 ため息をもらしていたので、なにか、あったのときくと、「外さ出っと、店…

ソーシャルディスタンス いまはうちのなかで……

エアコンのリモコンのボタンを押す。うちのなかではこのところ、とりわけこれがなかなか煩わしい、と思うときがあります。 脳性まひの障害でおきる不随意運動がありますが、そのときによって、からだがいつもよりいうこときいたり、きかなかったりします。 …

広場の木陰にて

区役所へ、用事がありました。 電動車いすで自宅から、10分もかかりません。 午後の窓口受け付けは、1時からだったと思いました。それまでひまだったんで、役所のそばの広場の木陰で休んでいました。 葉擦れの音がしていました。風に吹かれているうち心地…

母が来て……

昼すぎに部屋でひとり、休んでいると、仕切り戸が開いた。泉ピン子に似た母の顔があらわれ、 「おいっす!」 いかりや長介かい、と心のうちでつぶやきながら、おいっす、と返事した。 幸町からバスと地下鉄を乗りついで、ようすをみにきたのだ。ぼくは長町南…

帽子が飛ばされるぅ~

葉ずれの音が、ときおりざわついた。 横断歩道の赤信号で待つあいだ、見上げる。並木の緑がだいぶ深まってきていて、風にゆさぶられていた。 半袖のポロシャツに、長袖のパーカーを着せてもらっていた。それでも少し肌寒い。気温は二〇度ぐらいあるはずだが…

うちのかさまは、行くんかな……

朝、テレビに泉ピン子が出ているのをちらっとみたら、母の顔に似ているので、 「うちのかさまは、行くんかな」 あしたのことが気になって、知らなかったら伝えようと、電話のところへ這っていった。手がうまく動かないので、鼻で番号ボタンを押す。 はい、と…

一年生になったら

薄いダウンジャケットを着せてもらい、電動車いすで用足しへ行く。その道すがらの家の庭で、子どもたちが歓声をあげていた。 「ムカデがいるよ」 「えっ、どこ?」 小学生ぐらいの子が三、四人、しゃがんで地面を観察しているらしい。 冬のあいだ、裸の枝を…

母が来た?!

部屋のふとんの上でしばし休んでいると、玄関のドアのひらく音がして、歌声がきこえてきた。 「は~るばる来たぜ[E:#x266A]」 すかさずぼくは、大きな声で、 「は~こだて~[E:#x266A]」 はて、だれの歌だったか。北島三郎だ、と思い出した。 そうして部屋に…

急に冷え込んだとて

夕方に、ぐんと冷え込んだ日があって、すっかりあわてた。 とりあえずその日は短時間で準備できること、石油ファンヒーターを出してもらった。 寒くなると、体の不自由なぼくにとって、電気敷布も必需品なのである。 次の日に電気敷布をふとんにしいてもらう…

眠っているときの警報、なんとかならないか

朝早くに枕もとで大音量がして、たたき起こされた。 ケータイに使っているBluetoothスピーカーだった。寝ていても電話に出れるよう、枕もとにおいている。 地震がくるのかと、やっと頭をもたげ、携帯画面をのぞく。 ミサイルが飛んでくるかもしれないってい…

母におしえられ

きのうは実家の母(七十代)が、昼過ぎ、ぼくのアパートにようすをみに来ました。 玄関のドアが開き、 「おいっす」 ぼくは返事をしました。 「おぉ」 「なんだべ、元気ねえな」 「元気だよ、おいっす」 と返事しました。 タツタッタッタ、玄関からキッチンを…

垣根の謎の黄色い花

ザ・モール仙台長町の交差点側の生け垣に茂った濃緑の葉にまじって無数の黄の花が、咲いていました。 この前電動車いすで通ったときは、見ごろは終わりかな、と思ったのですが、どうやらいまが盛りの花らしい。 なんていう花なんだろう。 毎年眺め、ネットで…

あの黄の花は

長町南の大通りの若緑の並木の葉が、いつのまにか濃くなっていた。店の建ち並ぶ歩道を、電動車いすで行く。 向かいからの風がときおり強く吹き、あわてて下を向いて帽子が飛ばされるのを防ぐ。 ほかの県から来たひとは、仙台は風が強いですね、という。冬が…

天使の笑顔

夕べ、テレビをつけたら、〈卒業〉をテーマにした歌番組をやっていました。しみじみと、そんな季節なんだとひとりつぶやいていると、きいたことのある声がします。 曲の紹介をかね、それにまつわる思い出、視聴者からの投稿ですが、読みあげていたのは、あの…

空気が冷たくて

指先が特に、思うようには動かせない。外へ出ると、たびたび、 「ティッシュを……」 介助者がいなければ、鼻がかめないのである。脳性まひ、という障害のためだ。 電動車いすに乗せてもらっても、ひとりでの散歩はとうぶん大自然の神がゆるしてくれそうにない…

ハロウィンの魔法使い?!

暗闇でひとりになると、とたんに静電気や建物のきしむ音がする。就寝介助が終わって部屋の明かりを消し、ヘルパーさんが、おやすみといって玄関を出たあとだ。 ちなみにぼくには脳性まひという障害があり、手足が満足には動かせない。介助が必要なため、日中…

並んだご婦人さんに

散策への道すがら、キンモクセイの香りが、ほのかに漂ってくる。近くの家の庭に木があるが、もう咲いたのだろうか。 アスファルトの路面を枯れ葉がちらほら、乾いた音をたててころがっていく。 長町南はこのところ、雨の日が続いていたので自宅にいる日が多…

手をかりずとも、ぼくだけの小さなしあわせ

窓辺で膝立ちになり、いくらか利くほうの左のひじで、レースのカーテンをめくる。 空には暗い雲がひろがって、道の並木の葉がゆれていた。雨が降って、どんよりしたけしきが広がっている。 うでを引っ込め、レースのカーテンが閉じる。 平成二十八年六月三十…

へんなゆめ

十畳ぐらいの部屋がいくつかある、白っぽい建物の中に、なぜかいた。 知らない14、5の子たちばかりがたくさんいて、ぼくは、下級生になっている。 みんな何かを待っているようだが、それがわからない。絵を描いていたり、小物を組み立てたり、あるいはお…

クモから見つめられ

二センチほどのクモが、机の上を移動していた。 ふと顔を近づけ、観察する。十センチほど進んだところでクモは、その気配を察知したようにピタリととまる。首だけまわし、顔をあげ、二つの目で、ぼくの目をじっと見つめる。ギョッとした。 目を少しそらすと…

シャバシャバだよ~

「シャバシャバだよ~、尾崎さん」 昨晩の就寝時、おかっぱ頭の四十過ぎの主婦のヘルパーさんがそう言ってみえた。 「シャバシャバ?、ですか」 「そうそう!」 そして、 シャバシャバ~[E:#x266A] 小声でくり返し、へへっ、と笑う。どこかできいた節回しだ…

〈結婚を祝ってやろうじゃない会〉

ピアノのゆったりした生演奏が流れ、ツーショットの写真が飾られている。ずんぐりむっくりして、人のよさそうな新郎(三十代)。ショートカットの髪にくりっとした目を細め、ちょっと照れくさげな新婦(三十代)。しあわせそうな雰囲気が、ほおを寄せた笑顔…

アボガドが食べたくなって

割りばしをつけたサンバイザーをかぶって頭を動かし、ひとつひとつキーを押していく。 脳性まひ、という障害で手足が不自由なので、部屋でパソコンに向かうときは、いつもこうして操作する。 少なくなった食材を買いに、近くのヤマザワスーパーへ出かけてき…

買い出し

小鳥のさえずりが響きわたっている。 電動車いすの後ろをヘルパーさんについてきてもらいながら、住宅地の道のはじっこを進んでいた。 通りかかる家々の庭で、白や黄、紫の草花が、陽を浴びながらゆれている。 電動車いすの後ろのヘルパーさんは、穏やかな三…

東日本大震災でおなかがすいて

割りばしをつけたサンバイザーをかぶり、パソコンに向かう。 あたまを動かしながら、割りばしの先で一つ一つキーを押し、メールの文をつづる。 「○○さんは、だいじょうぶですか。ぼくは、おかげさまで、なんとか無事でした」 〈東日本大震災〉があってから、…

雨女と呼ばれて…

「『わたしんときは、カッパ着たこと、まだないですね、エヘヘ』って、も~、な~に~」 介護者派遣サービスの事務所を出てくるとき、通院時にずっとつづけてついてくれていた今年大卒の女のヘルパーさんに言われてきたらしい。 ほおをふくらまし、明るく笑…