買い出し
小鳥のさえずりが響きわたっている。
電動車いすの後ろをヘルパーさんについてきてもらいながら、住宅地の道のはじっこを進んでいた。
通りかかる家々の庭で、白や黄、紫の草花が、陽を浴びながらゆれている。
電動車いすの後ろのヘルパーさんは、穏やかな三十代の男の人で、ゆるいパーマをかけていた。
「尾崎さん、あったかいのか、寒いのか、よくわかんないですよね」
たしかに陽ざしは、ぴりぴりするような温かさである。けれども空気が冷たくて、風が吹くたび身にしみた。ぼくもうなずいて、
「ほんと、よくわかんないですね」
冷蔵庫の中の物が少なくなってきた。食材を買いにアパートから十五分ほどの〈ザ・モール仙台長町〉へ向かったのは、昼の少し前である。
平成二十三年四月二十四日、うっすら青い空に、雲がゆっくり流れている。
住宅地を抜け、田んぼの道を過ぎ、大通りへと出る。
信号を待つ。手前の車線は高く、向こうは低くなっている。ぼくはふり向いて、
「ここも、地盤が沈下しちゃったんですかね」
「あぁ、ほんとだ。すごい地震でしたもんね」
あの地震があってから、もうひと月半はたつだろうか。
並木が裸の枝をさらし、寂しかった通りも、いまはもう、若葉の緑がずっと続いている。
長町南の中心地も、少しずつ、活気づいているかにみえた。〈ザ・モール仙台長町〉の食品売場へ着いてみると、すごい人込みだった。
広い売り場で目当ての食材を苦労しながら探しまわる。
「どこにあるんだろう」
「こっちかな」
ヘルパーさんが買い物カゴをもちながら、
「それにしても、どこに、何があるんだか、さっぱりわかりませんね」
はじからはじへ、ぼくもふと天井のほう仰ぎながら、
「こんなに大きい売場だと、やっぱ、時間かかりますね。いつものヤマザワのスーパーの何倍あるのかなぁ…」
ようやく帰宅後、魚は切って冷凍し、野菜は冷蔵庫へ入れてもらう。
用が終わってヘルパーさんが帰り、部屋でひとりになってから、布団に横たわる。
小鳥が外でさえずっている。人込みの電動車いす操作で疲れた神経が癒される。いつしかまどろんでいた…。