夢とうつつで…
無精ひげを生やし、もじゃもじゃあたまの男の友人(三十半ば)がいる。久しぶりに会った彼は、心もちさっぱりしていた。
ぼくは車いすで、どこかの料理店にいっしょにいた。
飲みますと、ぼくが合図を送り、そのつど彼はストローをさした水割りを口元へ持ってきてくれる。酔いが少しまわってくると、脳性まひの症状が緩和されてきた。
リラックスした気分でいると、店の人が聞いた。
「お二人は、どんな関係なんですか…」
すかさず彼が、
「ホモダチです」
「ホモダチ…?」
首をかしげているぼくに、
「友だちのことですよ」
肩をポンポンとたたき、にっこりしながら言った。
「そっか…」
よくわからないけれど、きょうは、おいしいの、食べよう、と思っていた。そこで身震いがして、目が覚めた。
明け方の五時ちょっと前だ。寝るときは、ちょうどよかったのに、だいぶ寒くなっていた。
脳性まひの症状でふるえながら、電気敷布のスイッチを、手の甲でどうにか入れる。
――いまのへんなやりとりは、夢だったんか?
あたまをふって、いまみた夢をふり払った。
きのうの夕方、仙台の繁華街にあるお鮨の店に彼といっしょに出かけたのだった。
いつもパソコンに向かってばかりいるぼくに、
「たまには気晴らししてみませんか。お鮨のおいしい店があるんですよ」
と声をかけてくれた。
じっさいに行った店は、和風の落ちついたところである。まぐろ、イクラ、さんま、メニューの書かれた紙がオレンジの明かりに照らされ、壁に並んでいた。おいしそうに飾ってある魚は、店長さん手作りの模型であると聞いた。
鮨を箸で運んでもらい、口をパクパクしながら、
「店の雰囲気もいいし、お鮨の味も、スーパーで買うのと、ぜんぜん違いますね」
そこの店長さんは、優しそうな若い男の人だ。脳性まひのあるぼくの目をまっすぐ見て、笑顔で料理の説明をしてくれた。
なかでも、生さんまの和え物がおいしかった。店長さんのオリジナルと聞いた。
「秋は、さんま、ですよね」
ビールをストローで飲みながら、それを箸で口に運んでもらう。リラックスした気分で、お店の雰囲気に浸っていた。そんな夕べだった。
おいしい料理とほどほどのアルコールは、知らずにたまった心の憂さも、いっしょに癒してくれたようだ。
夢は身震いしたけれど、目覚めたあとは、いつもよりすがすがしかった。