脳性まひ者 しんやのひとりごと

脳性麻痺による両上下肢機能障害と共に生きる筆者が、折にふれ、浮かぶ思いをつづる。

コンサートや芝居が楽しめるレストランでゆっくりと…

 心に沁みるピアノの音が、店内に響きわたっている。優しくつつんでくれるようなメロディーは、ショパンノクターンだ。
 弾いているのは、生まれつき右手首から先がない、という方で、左の五本指と、右の手首の先を使って器用に鍵盤をたたいている。ここまでになるには、かなり苦労をされたのではないか、と思われた。
 太白区長町(仙台市)にある「びすた~り」というレストランで、きのう、一周年コンサート、というのがあり、体に障害のある人も、ない人も、多数のアーチストさんがいて、いろんな音楽が楽しめた。
 コンサートや芝居がゆっくり楽しめる、障害者が働ける、そんなお店をつくりたい、という思いから、このレストランはオープンしたそうだ。
 いつもパソコンの調子をみてもらっているボランティアさんが、この店へ、
「いっしょに、音楽聴きに、行きませんか」
 と声をかけてくださったのだ。「びすた~り」という店は、少し前に教えてもらっていたが、中に入ったのは初めてだった。ちなみに、びすた~りとは、ネパールのことばで、ゆっくり、という意味なのらしい。それぞれのペースでゆっくりと歩もう。忙しい現代社会へのメッセージにも思われる。
 百年ぐらい前の民家を、木と土壁の素朴な雰囲気のよさを生かしながら改装されている。中へ入ると、幼いころの懐かしいふるさとを思わせる。それでいて、音響の設備がしっかりしていて、コンサートや芝居を、本格的ないい音で楽しめる。
 ほっとするような、温かい雰囲気がある。ウエイターやウエイトレスも、そして厨房も、障害者と健常者がいっしょに働いているようにみえた。
 ぼくは車いすでテーブルにつき、ボラさんに紅茶を飲ませてもらいながら、ステージをみる。
 脳性まひの障害があり、女性ボーカルの少し後ろでキーボードを、かっこよく演奏されている若い男性もいた。
 障害にも負けず、前向きに生きる人びとの姿があった。それぞれのアーティストのステージから、
――つらいのは、一人だけじゃないから…。
 そんな思いが、伝わってくる。
 日々に疲れてくると、自分ばかり、という思いになるのは、だれしも同じだろう。
 つかのまを、ここでゆっくり過ごし、元気になれた。