脳性まひ者 しんやのひとりごと

脳性麻痺による両上下肢機能障害と共に生きる筆者が、折にふれ、浮かぶ思いをつづる。

オカマなんすかぁ?!

 役所へ用事があり、近くのザ・モール仙台長町の二階にある紳士服売り場へ寄った。
「この半袖のシャツ、いいなぁ。でも値段がちょっと高すぎだ。またこんどにしよう」
 ひとり呟き、買う必要のある夏向きの衣服の目星をつけながら、電動車いすで進んでいた。
 いつもとちがう婦人服売場に迷い込み、け出せなくなって、
「右かな。いや、左だ」
 いくら車いすのレバーをきって進んでも、女性の下着や化粧品ばかりが並び、恥ずかしいやら、あせるやら…。
 知り合いたちと食事へ行ったとき、恋愛話で盛りあがっていた。
 みなの話を聞きながら、ぼんやりしていると、
「尾崎さん、恋愛は? 彼女はいるんですか?」
 ずっと黙っているので気遣ってくれたのだろう。十九の女の学生さんが聞いた。
「ぼくですか。う~ん。ぼくは、半分女なので…」
 気づけばそう答えていた。浮いたこともなかったし、この手の話は苦手だからである。かたわらで介助をしていた若い男のヘルパーさんが、いぶかしげに、
「尾崎さん、やっぱり、オカマなんすかぁ。男がすきなわけじゃ、ないっすよね」
 彼とのあいだに一瞬、異様な空気が流れた。
「まさか、それはないですよ。ハハハハ」
 すると、女の学生さんが、
「あ、わかります。あたしも半分男みたいなもので…」
 そう言ってくれたので、ホッとした。
 だからといって、男がすきなわけではないし、女装の趣味もない。
 われにかえる。女性の下着の売場から出られず、途方に暮れるぼくがいる。
 すれちがう女性客は目が合うと、にっこりする人が多かった。この電動車いすのオッサンは、もしかすると、オカマなのかしら…。あるいは、ぼくの苦笑いが、たのしそうな笑顔で下着を選んで回っているようにみえたのかもしれない。なんとか、早く、ここを出なければ…」
 右へ左へ進んでいるうち、大きな通路がみえて、ホッとした。
 建物を出る。
 歩道脇の緑の植え込みに、無数の黄色い花が、ひらいていた。そこに電動車いすを寄せた。
「フフ、こんにちは。おじさんはいつも、ぼんやりだから、ヘンに思われるんだよ…。男なら、もっと男らしく、しっかりしなきゃね」
 幼い子のはずんだ声が、どこからか、きこえた…。