サンスベリアが、また伸びた?!
きょうは、午後にみえた三十代の小麦色の肌をした男のヘルパーさんが、部屋に入るなり、
「あれ、あの観葉植物の葉っぱ、また伸びたんじゃないですか?」
言われてみると、たしかに、同じ高さだったはずのそばの本棚より、もう二十センチはあたまが出ている。ぼくはうなずきながら、
「もう成長は止まった、と思っていたんだけど…」
テラス側の窓わきに置いているが、手入れは、月に一度か二度、ヘルパーさんに水やりを頼み、あとは濡らしたティッシュで葉っぱのほこりを二、三か月にいちど拭いてもらうぐらいだ。それだけなのに、葉っぱはぐんぐん育っている。
この部屋に越したのは、一昨年の十一月だったが、そのときにもってきた。
まだ少しもたたないころ、髪を微妙にちがう色合いのいくつかの茶で細いしまに染めた若い女のヘルパーさんが、ぼくの肩をポンとたたいて、それを指さした。大学にいる友だちの話もたまにしてくれていたから、そのぐらいの年ごろなのだろう。はじめてのときは髪型が今風で、格好いいなぁと少し見入った。おっとりした感じで、
「尾崎さん、この観葉植物、はじめから、こんなに大きかったんですかぁ」
と聞いた。みればいつもそのころは、そばにある120センチの本棚と同じ高さだった。
「これですね、買ったときは、半分ちょっとしか、なかったんですよ。こんなんなるとは、思ってもみませんでした…」
すると、はずんだ声になり、
「すごいじゃないですかぁ。尾崎さんも、たくさん食べて、成長して、もっと大きくなりましょうよ」
ポンと肩をたたいた。ぼくはつぶやく。
「もう、四十一になるんだけど、まだ成長するかなぁ?」
考え込んでいたが、はっと気づき、
「それってぼくが、チビってことですかぁ。ひどいです。でも、たしかに、お店で洋服選ぶときは、苦労するんです。とくに大人用のズボンは長いのばっかりで…」
彼女はフンといって、いたずらっぽく笑った。
「だから、尾崎さんも、もっとおっきくなってね…」
そして、ポンと肩をたたいた。
「はい、そうですね。がんばります」
と答えたが、いったいぼくは、何をがんばれば大きくなれるんだろう、と首をかしげた。
心身が少しくたびれていた時期だった。そんなやりとりをしているうち、気持ちが軽くなり、元気をもらっていた気がする。
きょうの午後の男のヘルパーさんも、同じ事業所からの派遣で、サンスベリアの葉の伸びぐあいから、自然とその話になった。
「ぼくは、チビ、なんですかね」
小麦色の肌をした彼は、まん丸い目をパチパチし、
「う~ん」
困った表情が、いかにもひょうきんだった。
サンスベリアの葉っぱたちは、鉢のなかで寄り合い、身をよじりながら笑っているみたいだ。毎日の人とのやりとりを、まるで漫才だ、と思われているのだろうか。