賞に選ばれた夢?
「えっ、なに?」
メールをひらいて、とまどった。
なんと、ぼくのブログが、賞に選ばれたというのである。
どこかに応募したおぼえもない。だれかに、うらまれているのかなぁ。きっと、いたずらだ。
けれども、しごとでねたまれるような、切れる男でもない。
女の子にモテたりすることもないから、そっちもない。
う~ん、なんで?
よくみると、
「今年の『コンテンツ賞』に、尾崎様の『脳性まひ者 しんやのひとりごと』が、選ばれました」
とあった。
「コンテンツ賞って、なに?」
ぼくには、ちんぷんかんぷんだ。
そうだ。広辞苑のソフトで調べてみよう。割りばしをつけたサンバイザーをかぶり、あたまを動かしながら文字を入力する。すると、出てきた。
コンテンツとは、中身や内容、といった意味らしい。
あらためて、自分のブログを読み返してみる。
哀愁ただよう、四十一の冴えないオッさんの姿があるだけだ。
それがコンテンツ、という賞に選ばれたなんて、ふしぎだ。
「それにしても、ぼくのブログを賞に選んだという任意団体仙台インターネット推進研究会って名前、なんで思いついたんだ?」
メールの差出人をみると、どこかでみた名前だと気づいた。
「もしかすると…」
ブログを登録させていただいている宮城県の情報サイトのオーナーさんじゃなかろうか。調べてみると、名前とアドレスが一致した。
「まじ?」
メールで問い合わせたら、その団体の研究委員にもなっていて、メールをくれたのだとわかった。
ほんとうだ。どうしよう。ぼくは、うろたえてしまった。
こんなことになるなら、せめてもう少し、見栄をはってカッコよく記事にすればいいのに、気がつくと、自分はいつも、冴えないオッさんの姿になってしまう。感情と理性で、思っていることがちがうからか。
千何百の宮城県内のブログの中から四人選ばれて、そのうちの一人にぼくがなったと式場でいわれても、ピンとこない。
「尾崎さんは、脳性まひ、という障害のことや、日々の生活を書きながら、だれにでもある気持ちを、さらりと書いてらっしゃる。涙が出ちゃってね…。尾崎さんのブログを読むまでわたし、障害のある方に、偏見をもっていたのかもしれないなぁって、それが身にしみて…」
四月十七日に仙台市一番町で表彰式があり、そのあとの主催者の打ち上げをかねた懇親会にも参加した。審査の方々が、いっしょにビールを飲みながら、そういって励ましてくださり、ぼくはすっかり恐縮していた。
会社の経営や交通関係、IT関係の会社の方など、ふだんは接点もないような方ばかりで、そこにぼくがいるのが、ふしぎだった。審査の方の一人が、
「尾崎さんのブログに、子どものころに好きだった女の子の話で、体がガクガクしてしまったって記事あったでしょ、あれもよかったなぁ。わたしも、そんなころ、ありましたよ…」
はじめは緊張して聞いていたが、酔いがまわると、脳性まひによる苦しさが、緩和されてくる。体がリラックスして、気分がよくなってきた。障害のあるなしなど、すっかり忘れ盛り上がった。
こんなにぼくがほめられるなんて、夢かもしれないなぁ。そう思った。帰宅し、ヘルパーさんに布団をかけてもらって、時計をみる。もうとっくに、夜中の一時をまわっていた…。