手作りクッキー
「こんど、障害のあるひと何人かと、学生集めてお菓子作りでもしようかと思うんですけど、きてみませんか?」
S協会に勤めるYさんからメールが届いた。
S協会はボランティアを派遣してもらっていたところだが、彼も学生のころ、その協会のボランティアとして、ぼくの外出の手伝いをしてくれていたのだった。もう十六、七年前になるのだろうか。それ以来、ときどきこうして声をかけていただいている。
気分転換になるかもしれない。ぜひ行きますと、メールを返した。
きのうの朝十時ころ、彼が学生さんを連れて迎えにきてくれた。
「この子、美人でしょ。ミス○○大なんで、よろしくお願いします。でもね。中味はどうだかわかんないよ~」
冗談ぽい口調で紹介し、髪の長い女の学生さんは笑いながら、
「な~んですか、それ、もう」
頬をふくらませた。ぼくも、思わず笑ってしまった。
ぼくはのんきに馬に乗ってるみたいだとスリルを楽しんでいたが、おさえてくれていた学生さんが疲れないか気になった、が、間もなく目的地の市民センターに着いた。
彼がミス○○大だと紹介してくれた学生さんに車いすを押してもらい、お菓子作りをする部屋に入る。
ときどきメールのやりとをしている車いすのM穂ちゃん(三十代)もいて、あいさつした。
お菓子作りがはじまり、何人かの学生さんが、かわりばんこにお世話をしてくれた。
手先の器用な女の学生さんもいた。クリーム色と茶色の粉を練って、クッキーを作るのだが、みるみるうちに、犬や猫、男の子や女の子の顔の形になっていく。
すごいなぁ、と思いながら、その手元を眺めていると、
「それでは尾崎しゃんもいっしょに、ハートのクッキーをつくりましょう」
ぼくの脇に座って手元を見せながら、指示してくださいね、と言った。形ができあがり、にっこりしながら、
「では、ラブと入れましょうね。わたしと尾崎さんのラブでしゅからね」
ぼくは目をぱちぱちしながら、
「ラブ、で、すか…」
「いやでしゅか」
「いえいえ、なんか、おもしろいですね。あはっあはっあはっ…」
「でしょ? こうやって完成でしゅ」
けれどもなぁ、ぼくの若いころは、こんなふうに言ってくれる女の子なんて、いなかった。最近は、こんな冴えないオッさんをも気づかって、うれしいことを言ってくれる優しい子も、いたりするんだなぁ。けれども、このオッさんは、こういうやりとりには慣れていない。気の利いたことも言えず、しどろもどろになっていくばかりだ。
そのうちに、クッキーがたくさんできあがった。
S協会のYさんが、おみやげの仕分けをしていると、車いすのM穂ちゃんが大きな声で、
「その大きいハートの、ラブってかいてるクッキー、尾崎さんの!」
ねえ、と言って、にっこりしながらぼくを見た。そこでみんなにも注目されてなんだか恥ずかしくなり、思わず目をぱちぱちしていると、
「そうなんだ。ずいぶんデッカイハートのクッキーだね。入るかな」
彼は言いながら袋に入れ、ぼくのバッグに入れてくれた。
クッキーは、帰宅して夕食後に食べさせてもらった。
寒い日だったが、とっても甘くて、あったかい味がした。