夜の街で
居酒屋さんを出たのは、夜の八時過ぎだった。
十二月も中ごろになると、ジャンパーを着せてもらっていても、空気の冷たさが身にしみる。
仙台駅周辺の夜は、赤や黄、ブルーの灯りがきらめいている。
きのうはガイドのヘルパーさんについてもらいながら、南町通りあたりを、電動車いすでぶらついていた。
ある障害者支援団体の忘年会があって、参加していたのだ。
その日、介助についてくれたのは、ちょびひげを生やした、二十代なかごろの男の人だった。
いっしょに歩いていると、ページェントがあり、サラリーマンや子どもを連れた家族がすれちがう。
肩を寄せあうカップルも、けっこういたりする。
ちょびひげのヘルパーさんが、うらやましそうなそぶりだった。
「今年初めてのページェントが、尾崎さんと、みることになるなんて……」
よわよわしく笑いながら、いわれてみると、
「う~ん、たしかに、男二人じゃね~」
ぼくもうなずいてはみるが、ほんとうなのかどうか。介助に入るたび、
「ぼく、彼女、いないんです。いい人いたら、紹介してくださいよ」
なんて言っているが、それはぼくの手前のことで、ほんとはいないはずはないと、ぼくはにらんでいる。
このヘルパーさんに介助をしてもらいながら、さっきまで、ぼくはビールを中ジョッキーで三杯近くのんでいた。
まわりの男たちは、女の子の話で盛り上がり、ぼくはときどきうなずいて聞きながら、少しぼんやりしていた。そのうちの一人が、そんなぼくのようすをみて、
「ところで、尾崎さんは、彼女とかほしいと思わないんですか」
こんなこと、聞かれても、ぼくはもう四十一の、しかも冴えないオッさんだ。
「いやあ、その……」
とつまっていると、相手の人は眉をひそめ、まじまじと見た。
「もしかして、おかまだったりしないですよね。そういえば尾崎さんって、そう思ってみると、おかま系のような、雰囲気が……」
そう言われ、返す言葉が見つからずにひきずり笑いをしていると、となりにいた坊主頭のOさんが、赤い顔で飲んでいた取っ手付きのコップをドンとおき、言い放った。
「尾崎さんは、ストレートの男性です!」
ぼくと同じ脳性まひで、電動車いすに乗っている。三十代前半の、障害者男子レスラーだ。
少し間があって、
「えっ、ストレートの男性ってなに?」
「そっかぁ、わかった! 信じて、いいんですね」
「よかった~」
目をぱちぱちしながら、どうしてぼくは、こんな話の展開の中にいるのだろうと、首をかしげた。
そのうちぼくも、酔いが回ってきた。いつもの脳性まひの症状が緩和され、体が楽になってくる。
──なんか、いい気分だな。
たまにはこんなふうに、だれかと騒いで過ごすのも、いいかも……。そう思えてくる。
ちょびひげのヘルパーさんについてもらって、電動車いすで家路に向かう。途中、ぼくは、夜の街にきらめく光を、もういちど、ゆっくり眺めた。