猫とボール遊び
部屋の窓をあけてもらい、外を眺めていると、ときどき「ニャオ~ン」と鳴き声がする。
白黒の猫が、じっとこちらを見上げている。こんにちは、と言うと、猫はこちらをじっと見ながら、
「ニャオ~ン」
と鳴いた。
毛並みがきれいだし、人慣れしているから、たぶんどこかで飼われているのだろう。
そういえば、四、五歳ぐらいのころだろうか。母の実家ですごしていたときがあった。トラ猫がいて、スーパーボールを転がしてやると、前足でこちらに打ち返した。
ぼくが縁側を這ってあるいていると、後ろからニャオ~ンと呼ぶ。クルリと回り、猫のあとをついていく。座敷に入った。するとトラ猫はニャオ~ンといって、スーパーボールをこちらに転がしてよこすのである。
キャッチボールしよう、と言っているみたいだった。というか、転がしボールだ。
脳性まひ、という運動神経の障害で、歩くことも、立っていることもできない。いつも四つん這いで移動するから、たぶん猫はぼくのことを、同じ目線であるく仲間かなんかだと思っているのかもしれなかった。
ぼくがトラ猫の遊び相手をしていたのか。トラ猫のほうがぼくの相手をしてくれたのか。いまふり返ってみてもよくわからないが、楽しかったのはおぼえている。
いま、ぼくのいるアパートのベランダに来ている猫は、ちょっとのあいだ、休んでいくだけだ。
どこかで、かわいがってもらっているんだろうか。
たぶん家には小さな子どもがいて、この猫も、遊び相手になってくれているのかもしれない…。