脳性まひ者 しんやのひとりごと

脳性麻痺による両上下肢機能障害と共に生きる筆者が、折にふれ、浮かぶ思いをつづる。

主婦の感覚?

 ある夕食時、ヘルパーさんがきいた。
「尾崎さんは、この納豆がすきなんですか?」
 ぼくは、そのときどきの気分で、なんとなく選んでいるつもりでいた。
 いわれてみるとたしかに、納豆はサンコー食品から出ているものが多い。
 あらためて考え、いま気づいたことを伝えた。
「なんか、食材買いに行くと、安いほうに目がいっちゃうみたいなんですよねぇ」
「わたしも、おんなじだよ~」
 と言うヘルパーさんは、家では中学生くらいの子どもがいるお母さんである。
 ぼくは口をモグモグしながら、これまでのことをふり返ってみる。
「たまには刺し身でも、食べたいなぁと思うんだけど、いざお店に行くと、焼き魚でいいやって、考えが変わっちゃう、みたいです」
「そうなんだよねぇ。きょうはおいしいのにしようと思っても、気がつくと、値段で選んでるんだよね。主婦の感覚っていうのかな」
「主婦の感覚、ですか」
 家計のやりくりをしていると、無意識にもそうなってしまう、というわけだ。
 ぼくも施設を出てひとり暮らしになってから、買い物をしたあとはパソコンに向かい、家計簿をつけるようになった。
 脳性まひ、という運動神経の障害で、手指がねらったところへいかない。だから割りばしをつけたサンバイザをかぶり、あたまを動かしながらキーを押す。そうしながらレシートにある数字を入力していく。
 家計簿も、はじめたばかりのころはソフトの使い方もあまりわからず手間取ったが、最近ではだいぶなれてきた。
 けれども…、とヘルパーさんが言った。
「たまにはおいしいの、食べたいよね」
「そうだよねぇ」
 ぼくも話しているときは、たまには自分から贅沢する勇気を出してみよう、という気になるが、すぐにそれも忘れ、安いほうへ目がいってしまうのである。