月が変わって、もう師走なんだぁ…
パソコンのキーの操作も、ぼくの手指はねらったところへあまりうまく動かないから、割りばしをつけたサンバイザーをかぶり、あたまを動かしながらキーボードのキーを押す。
利用しているいくつかのヘルパー派遣事業所とのやりとりや、いろんなところへの連絡はメーを使う。
生活上出てくる経費、買い物の振り込みも、だいたいパソコンでやってしまう。
パソコンでなんでもできちゃう感じなので便利だが、少しすると首だけでなく、からだじゅうが疲れた感じになる。
脳性まひによる障害で、何もしていないときでも、起きて活動しているあいだはずっと力が体に入るからである。
ときどき布団に横になる。一息つきながら、ふとカレンダーを眺める。
カレンダーは前の日に思い出して、ヘルパーさんに頼んでやぶいてもらっていた。
いつだったか月が変わる前の日、ぼくはパソコンとかでくたびれて、起きたままでちょっとそのあたりをさすってもらいながら、少しぼんやりしてしまっていた。そのときはショートの茶髪で目のパッチリした女性のヘルパーさんだったが、ときどき大学にいるお友だちの話もしていたから、たぶん二十歳をちょっと出たくらいなんだろう。
ぼくは疲れのせいでいつのまにか、舟をこいでいた。
「尾崎さん尾崎さん」
肩のあたりをポンポンかるく叩かれているのに気づき、ハッとしてあわてていると、そのヘルパーさんがのぞき込んで、いたずらっぽい微笑を浮かべていた。
「眠いんですかぁ、尾崎さん。明日からもう○月ですよ。もしかして、また忘てたんでしょう。一日早いけど、カレンダー、やぶいちゃいますか。たぶん尾崎さんのことだから、いま気づいたときにやらないと、ずっとそのままになっているような気がするんだけど…。フン」
言われてみると、ぼくは思った。
「たしかに、そうだったかも……」
みている人は、ちゃんとみているんだなぁ、それもぬけてるところ……。
ぼくもしっかりしなきゃと、月が変わる前の何日間かは、それ以来、カレンダーのこともなんとなく気にするようになった。
「師走かぁ。今年も、一枚だけになってしまったんだなぁ」
ヘルパーさんだけでも、たくさんの入れ替わりがあって、たくさんの人に出会って、いろんな関わりがあったなあと、しみじみ思う。
来年は、どこでどんな人と会って、どんな関わりがあるんだろう。
カレンダーを眺め、いつしか祈る気持ちになっていた。
どうかいい人とたくさん出会って、心の中が、あったかい思い出で、いっぱいになりますように……。