脳性まひ者 しんやのひとりごと

脳性麻痺による両上下肢機能障害と共に生きる筆者が、折にふれ、浮かぶ思いをつづる。

湯船につかり…

 湯船につかり、ふうっと息をつく。
 そばで汗を拭いながら、ひとりで何か呟いている。
「あぁ、ぼくのほとばしる肉汁が、尾崎さんにかかってしまっては…」
「???」
 風呂に入る日で、夜の八時にその介助にみえていた。いつも行儀よく正座し、
「きょうの入浴介助は、この、イベリコ豚がさせていただきます」
 それから介助を始める。人のよさそうな目の細い、おなかぽっこりの三十代の男のヘルパーさんである。
「こんなに寒いのに、どうしてこう肉汁が吹き出してくるんでしょう。やっぱり、ぶくぶく太ってるからかな。う~、これじゃ、ガッキーに会ったら、なんて言われるか…。でも、ガッキー、やっぱりかわいいなぁ」
 細い目がたれていた。ガッキーは新垣結衣さんの愛称で、たしか二十三歳ぐらいだろうか。あこがれの女優さんらしい。クスッとしながらぼくも、
「そういえばガッキーの出てた〈らんま1/2〉、録画してみましたよ。ガッキーがらんまかと思ったら、あかね役だったんですね」
「ショートカットにして、ますますかわいくなりましたよね」
「…ですね」
「そういえば志田ちゃん、最近出てないですよね」
 こんどはぼくのほおがゆるむ。
「それがなんと、ブルボン〈牛乳でおいしくホットなココア〉のCMに出てるんです。もう、うれしくて…」
 気づけば四十四歳、浮いた話ひとつなく、きょうまできた。志田未来さんは、十八、九のあこがれの女優さんである。彼女の笑顔がいつだって、ぼくの淋しい胸のうちを癒してくれる。
──クリスマスは、志田ちゃんの写真を飾って、BGMは、〈ハッピークリスマス〉にしよう…。
 目を閉じれば、カッコいいファッションに身を包み、志田ちゃんと手をつないで光のページェントを眺めているぼくがいる。
 湯船につかり、いつしかぼくの目も、たれている…。