脳性まひ者 しんやのひとりごと

脳性麻痺による両上下肢機能障害と共に生きる筆者が、折にふれ、浮かぶ思いをつづる。

〈結婚を祝ってやろうじゃない会〉

 ピアノのゆったりした生演奏が流れ、ツーショットの写真が飾られている。ずんぐりむっくりして、人のよさそうな新郎(三十代)。ショートカットの髪にくりっとした目を細め、ちょっと照れくさげな新婦(三十代)。しあわせそうな雰囲気が、ほおを寄せた笑顔にあふれている。
 平成二十三年十二月九日、仰げば星がひとつ瞬いていた。暗い夜道、外は冷たい空気が身にしみ込んでくる。長町南仙台市)のアパートから車いすを押してもらい、四十分ぐらいかけて着いた。〈長町遊楽庵びすた~り〉のレストランに入ったのは、夜の八時ごろだった。
 イタリアンの、バイキング形式だった。車いすを席に着けてもらう。新郎新婦の入場を待つあいだ、壁の写真を眺めていた。外出の介助でついてくれていた三十代の女のヘルパーさんが、
「この女の方って、以前にいた施設で、いっしょだったんですか」
 こけしのような髪のかたち、くっきりした目鼻立ちは、どこかでみたクレオパトラの絵の雰囲気があった。そのヘルパーさんに、
「はい、同じ脳性まひで、同じ障害者施設にいました。そこを出てアパートで暮らし始めたのは、ぼくの一年あとだったかな。だんなさんは、その施設の事務にいて、とってもいい感じの職員さんでしたよ。パソコンにくわしくて、ぼくもその買い物、つきあってもらったりしてたんです。そういえば、なんとなく仲よさそうな雰囲気はあったかも…」
「へぇ、そうだったんですか」
 新郎新婦の入場で紙吹雪が舞う。ウエディングドレスを身にまとい、化粧もばっちり決まっている。だんなさんに車いすを押されながら、こぼれる笑顔がいかにもしあわせそうだった。
 近くの長町に住んでいて、ぼくのアパートのある長町南にも、電動車いすで用足しなどに来ていた。道でときどきばったり会って、それぞれの近況を話す。ずっとみていなかった。久しぶりに会ったのは、三週間ほど前だったろうか。
「わたしね、結婚して、いま、おなかに子どもがいるの」
「えっ、ほんとに」
 びっくりしながら、みると、おなかがふくらんでいた。
 それから会うたび、
「からだ、だいじょうぶ。おだいじにね」
「うん、尾崎さんも、風邪に気をつけて…」
 障害者施設から出て、いろんな人のいる地域で暮らす決心をしたとき、T春ちゃんも実現へ向けて、同じ仙台市の自立生活センターにサポートしてもらっていた。そこの職員さんからメールが届いたのは、それから数日後のことだった。
「〈結婚を祝ってやろうじゃない会〉を開催します。お時間がありましたら、ぜひ、ご参加を…」
 紙吹雪が舞うなかを進んでくる二人を眺めていると、
「はい、尾崎さんも」
 切りきざんだ折り紙を、ヘルパーさんが手の指のあいだに挟んでくれた。その手をふる。運動神経に関わる障害で、うまく指がひらかず、飛ばなかったけれど、二人の上にふらせた気分になっていた。
 ストローのさされたグラスを、ヘルパーさんが口もとへ寄せてくれる。ひと口すすり、
「あぁ、うまい」
「だんなさんも、いつもにこにこして、いい感じの人ですね」
 ヘルパーさんがつぶやき、ぼくも心からうなずいた。そっと祈る。
──いい人に巡り合って、よかったね、T春ちゃん。いつまでもしあわせに…。