脳性まひ者 しんやのひとりごと

脳性麻痺による両上下肢機能障害と共に生きる筆者が、折にふれ、浮かぶ思いをつづる。

ソーシャルディスタンス いまはうちのなかで……

 エアコンのリモコンのボタンを押す。うちのなかではこのところ、とりわけこれがなかなか煩わしい、と思うときがあります。
 脳性まひの障害でおきる不随意運動がありますが、そのときによって、からだがいつもよりいうこときいたり、きかなかったりします。
 狙いをさだめたリモコンのボタンのところに、うでがその意志どおり動いてくれれば、げんこつの角でボタンを押します。
 ですが、どうがんばってもあさってへ手がいってしまうときが多く、だいたい鼻でボタンを押します。
 25度にして、よし、とくるりとうしろへ向き、パソコンの前に這っていきます。
 割り箸のついたサンバイザーをどうにかかぶり、それから正座します。頭を動かしながらパソコンのキーを押していると、
「なんか、アジ~」
 だんだん汗が出てきます。
「やっぱ25はだめだ、1度さげるべ」
 せっかくかぶったサンバイザーですが、頭を動かして、テーブルの縁にツバの箸をひっかけてとり、くるりとうしろへむいて、エアコンのリモコンのある布団のところに這っていきます。鼻でボタンを押します。24度にして、「よし」
 ところが、しばらくすると、汗が引っこんできて、涼しくなりすぎます。
 そうして何度か行き来し、あ~もういい、となります。
 やっぱり25だと筋緊張で汗が出やすいので、これでいいやと涼しいほうの24度で折り合いをつけます。
 くたびれてぼんやり窓の外を眺めると、晴れて雲がない。ふとカレンダーをみる。六月九日か、もう夏なんだな、と思ったりしています。
 夏になるといつも出かけていた仙台七夕まつりも、花火大会も、音楽等のイベントも、コロナのウイルスのせいで無いんだなぁ、とさびしい気がします。
 夜明け前がいちばん暗い、という話は五木寛之の本で読みました。
 よくテレビで小池百合子東京都知事が呼びかけていた「スティホーム」の意味がはじめわかりませんでしたが、コロナに感染しないよう家にいましょう、と説明をあとにつづけていたのでした。
 そんないま、ぼくはうちの中でなにをしているか。だいぶ前からしていることですが、クリヤーファイルにいれて、音読、言語訓練をするのに適当な文の書かれた本を、時間があればひたすらパソコンに打ち込んでいます。去年のいまごろから数えると、つまりこの一年間では5冊の本を打ち込みました。
 言葉が不自由でも、なるべくはっきりしゃべれるようにしておけば、町の関わり馴れない人とも挨拶ぐらい交わせるかと思うのです。
 やっぱり地域の人と、あんまり交流ができないのは、さびしい。でもいまはワクチンがまだない新型のウイルスがいるから、しかたないね。
 コロナの心配がなくなると、これまでよりも、いい社会になっていくんじゃないかという説をいっているひとたちもいるようです。いろんな差別がコロナでゆさぶられて浮き彫りになり、そのおかしさに気づく人が増え、みんな違って、みんないい、そうなっていくんじゃないかと。スティホームをつづけなければならなかったり、がまんやつらい思いをしたぶん、このコロナの終息後は、そんなふうにせめて社会がよりよいほうへ向かってほしい、と祈るばかりです……。