脳性まひ者 しんやのひとりごと

脳性麻痺による両上下肢機能障害と共に生きる筆者が、折にふれ、浮かぶ思いをつづる。

帽子が飛ばされるぅ~

 葉ずれの音が、ときおりざわついた。
 横断歩道の赤信号で待つあいだ、見上げる。並木の緑がだいぶ深まってきていて、風にゆさぶられていた。
 半袖のポロシャツに、長袖のパーカーを着せてもらっていた。それでも少し肌寒い。気温は二〇度ぐらいあるはずだが、風が強いせいだろう。平成三十年五月二十三日、空はくもっていた。
 予報をネットでチェックし、
――雨は降らないな。
 昼過ぎに用が終わって帰るヘルパーさんに、電動車いすに移乗してもらって外へ出る。ひとりでぶらっと出かけたが、住宅地から大通りに出たところで、風が吹きあれたのだった。
――やばいっ、帽子が飛んじまう。
 押さえようにも、手がうまく動いてくれない。そんなときは風が吹いてくるほうへ、瞬時に頭を傾けるしかあるまい。さすれば風は帽子のツバに上からあたり、飛ばされずにすむ。ただ風の向きは、急に変わったりするからやっかいだ。
 すれ違おうとする自転車の人が、帽子を飛ばされ、あわてていた。
  風に吹かても[E:#x266A]
  何も始まらない[E:#x266A]
  ただどこか運ばれるだけ[E:#x266A]
 欅坂46の〈風に吹かれても〉の曲が、頭の中を流れる。ちなみにこのガールズアイドルグループのメンバーのことは、よく知らない。ただダンスがかっこよく、かげりのある楽曲がいくつかある。いやなことがあった日やストレスがたまったとき、たまに聴きたくなって部屋で流すぐらいだ。それで気が晴れたりする。それはそうと、帽子がどこかへ運ばれてはかなわない。
 からだじゅうに力がいつもはいっているのは、脳性まひの運動神経の障害のためで、意思と関係ない。あわてると、さらにその症状が強まり、ちょっとつらくなる。
 強風が吹くたび、電動車いすをとめる。やばいっ、帽子が飛んじまう。それを防ごうと、頭を傾ける。
 いつどっちから強風が吹くか、予想できない。そのたび体がビクッとなる。なんどもだと力が抜けなくなって、もうくたびれたばい……。