脳性まひ者 しんやのひとりごと

脳性麻痺による両上下肢機能障害と共に生きる筆者が、折にふれ、浮かぶ思いをつづる。

うちのかさまは、行くんかな……

 朝、テレビに泉ピン子が出ているのをちらっとみたら、母の顔に似ているので、
「うちのかさまは、行くんかな」
 あしたのことが気になって、知らなかったら伝えようと、電話のところへ這っていった。手がうまく動かないので、鼻で番号ボタンを押す。
 はい、と出たので、
「オレだよ、オレ、オレ」
「ハハハ、なんだ、オレオレ詐欺が」
 暑くなりそうだから、早いうちに、買い物へ行こうと、支度していたところだったそうだ。予報では25℃を超えるらしい。
 ひとり暮らしの母の家の壁には、雑誌の切り抜きが貼ってある。帰省すると、フィギュアスケート羽生結弦選手を眺めてなにかつぶやいていることがある。あしたその羽生結弦がくるというので仙台のちまたは盛りあがっているようなのだ。
「母ちゃんは、行くのが」
「いやぁ、そんな元気ないわ、テレビでみでっぺ」
 フィギュアスケート界のイケメンを、ひと目でも見ようという人が集って、押し合いへし合いになるだろうな……。
「うんじゃ、母ちゃん、買い物、行ってくっからや」
 母の元気そうな声にホッとしながら、気をつけてといって、電話をきった……。