一年生になったら
薄いダウンジャケットを着せてもらい、電動車いすで用足しへ行く。その道すがらの家の庭で、子どもたちが歓声をあげていた。
「ムカデがいるよ」
「えっ、どこ?」
小学生ぐらいの子が三、四人、しゃがんで地面を観察しているらしい。
冬のあいだ、裸の枝をさらしていた木も、桃色の花におおわれている。
平成三十年四月四日、仙台はまだ、雪が降っていてもおかしくない時季であったろう。なのにここ数日のあいだには、もうすぐ初夏がくるのかと思ってしまう日があった。梅や桜は、早く花を咲かせなきゃとあせっただろう。
予報では、また寒くなるらしい。土から出てきた虫も、あわてて引っ込んでしまうのではなかろうか。
スーパーに着く。
電動車いすの操作はできても手指があまりきかないと、風のある日は、一人では外をいけない。
「すみません、バッグにティッシュが入っているので、出してもらえますか。涙がボロボロで……」
「あらら、花粉ですね」
他の客に泣いているのかと思われるのが恥ずかしいので、用足しにつきそっていたヘルパーさんにふいてもらってから、スーパーの中に入る。
ちょうどいまごろか、何年か前に外へ出たとき、ちいさい子がのぞき込んで、
「どうして泣いているの」
と心配してくれたことがあり、こんな優しい子もいるんだ、と、ますます涙がボロボロになって、顔があげられなくなったこともあったっけ。
スーパーで品物を見て回っていると、BGMで気がついた。
一年生になったら[E:#x266A]
一年生になったら[E:#x266A]
ともだち100人 できるかな[E:#x266A]
いまは春休みなんだ。入学式が待ち遠しい子もいるのか。
花粉のせいで涙がボロボロになったのを、泣いてるの?と心配してくれたあの子は、こんど小学何年生になるだろう。元気でいてくれるといい。
優しい隣人が陰で牙を向いていたり[E:#x266A](歌・平井堅)
生きていれば、身近で関わる人たちさえ、信じていいのか、わからなくなるときもある。
学校も、社会の縮図という。
学校も、社会の縮図という。
心が傷つき弱ってしまうことも、ときにはあったするだろう。
恥ずかしい大人の背中を、ぼくもみせていないか。胸にそっと、手をあててみる……。