脳性まひ者 しんやのひとりごと

脳性麻痺による両上下肢機能障害と共に生きる筆者が、折にふれ、浮かぶ思いをつづる。

母が来た?!

 部屋のふとんの上でしばし休んでいると、玄関のドアのひらく音がして、歌声がきこえてきた。
「は~るばる来たぜ[E:#x266A]」
 すかさずぼくは、大きな声で、
「は~こだて~[E:#x266A]」
 はて、だれの歌だったか。北島三郎だ、と思い出した。
 そうして部屋にいるぼくを、泉ピン子に似た顔がのぞく。
「元気でよろしい」
 母(七十代)がようすを見に来たのだ。
 ぼくは長町南のアパートで介護サービスを利用しながら暮らしている。体が思うように動かせないのは、脳性まひという障害のためだ。
 ヘルパーさんの出入りが二、三時間おきにある。母がたまに来るのは、ぼくがひとりでいる時間帯だ。車だと三十分ほどの幸町のアパートで母はひとり暮らしている。そこからバスや地下鉄を乗り継いでくる。
 きょうは北島三郎の「は~るばる来たぜ[E:#x266A]」だったが、登場のしかたは、そのときによってちがう。
「おいっす」
 ドリフターズいかりや長介みたいだ、とぽかんとしていると、
「なんだ、元気ねえな」
 泉ピン子に似た顔に言われてしまう。その次は、息子のほうものりのりになり、
「おいっす!」
 一時間半ほど、世間話をしたり、部屋の片付けをしてくれたりして帰って行った。
 母が元気だと、いつもながら、ホッとする。