脳性まひ者 しんやのひとりごと

脳性麻痺による両上下肢機能障害と共に生きる筆者が、折にふれ、浮かぶ思いをつづる。

仙台七夕祭りで

 地下鉄勾当台公園駅のエレベーターで地上へ出ると、出店が並ぶあたりは、人の波だった。
 仙台七夕祭り見物へ、きのう午後から出かけた。
 家族づれや浴衣姿のカップルが、むこうからきてすれ違う。
 車いすを押してくれていたヘルパーさんは、おだやかな男の人だった。
「人が込んでるけど、祭は雰囲気ですよね」
 ぼくも、うなずく。
 すいているほうへ、車いすを押してもらう。おなかがすいてきた。
「なんか、食べたいですね」
 そう伝える。ところが、へんだな、と首をかしげた。車いすが、高校生らしき女の子のグループのほうへ、そろり、そろり、と進んでいくではないか。水色やピンクの浴衣の花模様が、かわいらしかった。そこで気づいた。
 のんきに思っているところじゃない。
 脳性まひという障害により、話すのに舌がもつれ、ぼくの言葉がはっきりしない。おまけに、まわりがにぎやかすぎて、なんか食べたいと言ったのが、ヘルパーさんには、
「タイプのコがいるんで、あそこへ行きたいです」
 と聞こえてしまったようなのだ。
 ちがう、ちがう、とぼくは手足をバタつかせた。――こんな冴えないオッサンじゃ、まずいよ~。ガールハントなんて、したこともないし…。
 出店をですね、もう少しみたいんです。そうふたたび伝えると、
「あ、なんか食べたいんですね」
 女の子のグループのほうへ進んでいた車いすがバックしたので、ホッとした。
 七夕祭りには織り姫と彦星の、かなしいけれど、ロマンチックな物語がある。
 地下鉄駅のエレベーターの中で、鏡に映る自分をみて、年とったな、としみじみ思ったばかりだった。――そういう浮いた話なんて、なかったな。
 いつしか日は落ち、勾当台公園では歌のステージが始まっていた。
 ハイボールを飲んで少し酔いがまわるにつれ、いつも抜けない体の力が、いいぐあいにゆるんできた。
 意に反して手足が動く症状もなくなり、アルコールのおかげで体がラクになると、祭の雰囲気が楽しくなった。
 さっきのできごとを思い出し、笑いがこみ上げた。
 あのまんま車いすを押してもらって浴衣姿の高校生らしき女の子のグループの中まですすんでいたら、人のよいヘルパーさんだから、
「タイプのコがいるそうです」
 とぼくの思いを通訳?してくれたりするんだろうか。そうなっていたら、ぼくはうろたえるにちがいない。いったいどうしていたんだろう…。